楽天 三木谷氏×MIT 伊藤氏「Fintech革命に日本が取り残されないために」

公開日時: 2016/09/29 PM4:42 JST

rakuten670300

9月28日、東京で開催された楽天フィンテック カンファレンス2016で、MITメディアラボ所長の伊藤 穣一氏と楽天代表取締役会長兼社長の三木谷 浩史氏が「Fintech革新が変える日本、世界」というタイトルでセッションを行った。

 

MIT伊藤穣一氏「Fintechの根っこはビットコイン」

 

MITメディアラボの伊藤氏は早くからビットコインのテクノロジーに注目し、MITメディアラボとして研究を進め、積極的に発信も行ってきた人物だ。そんな伊藤氏は、「今騒がれているFintechの技術にはふたつの種類があると思っている。既存のコストを下げるものと、抜本的に変革するもののふたつ」と話し、どちらにしても「(フィンテックの)インフラの根源となる技術はビットコインの基盤技術から来るだろう」と話す。なぜなら「暗号、分散処理、セキュリティ」といった根幹技術をすべて持つのが現在ビットコインだからだと説明する。

 

90年代に電子支払いシステムの草分けである「デジキャッシュ」の流れを経験してきた伊藤氏は、当時インターネットよりもマネー関連技術の発展の方が早くなるかと感じていた。しかし、実際にはインターネットが飛躍的な進歩をとげ、マネー関連技術の進歩は停滞していた。

 

この流れを受けて、伊藤氏は現在のフィンテック関連のインフラは「商業プロバイダがいない時代のインターネットとよく似ており、標準化もまだできていない段階」と評する。

 

伊藤氏は、今の技術開発の取り組みのいくつかの中には、基礎部分をおろそかにし、まるで「土台のないところに城を建てようとしているようで心配」とし、フィンテック技術の今後の展望について、「今はたくさんの試みがあるが、最終的には基盤技術がしっかりと存在するビットコインかもしくはそれと似た技術がインターネットのように進化していくのでは」と話した。

 

インターネット時代に比べて、基盤技術作りに貢献する日本人が“不在”

 

伊藤氏は、今後重心となる技術はビットコインから生まれると予想した後、現在ビットコインの技術開発コミュニティに日本人がいないことを指摘。インターネット黎明期に現慶應技術大学環境情報学部長の村井 純氏が学会に参加し、技術基盤作りや啓蒙活動などに大きく貢献したことと比較して憂慮した。

 

三木谷氏「デジタルキャッシュの方が便利だよね、という時代は必ず来る」

 

三木谷氏は、楽天創業当時の20年前を「誰もインターネットでものは買わないよ、と皆が言っていたが、自分はネットの方が流通コストがかからない分単純に安く品物を販売できるので勝算があると思っていた。実際にそのとおりになった」と振り返り、「人は貨幣に信用担保や匿名性など様々な機能を求めるが、つきつめれば貨幣もやはり流通コストがかからない方がよい。ダムを作っても水は低い方に流れるように、流通システムが安いデジタルキャッシュの方が便利だという流れが必ずくると思う。タックスの徴収も楽になるし、10万円以上の決済はすべてデジタルキャッシュにする、などという議論を真剣に進める国もあると聞いている」と話す。

 

 

楽天ポイント発行は今、年間4000億円ほどだ。これは数年内にさらに数倍規模で拡大すると三木谷氏は見ている。インターネットで日本が後れをとったことを、「各種規制の対応の遅れ」が原因だったと三木谷氏は話し、IoTでもSNSでも後れを取ってしまっている今、金融規制の対応は早く進んで欲しいと述べた。

 

また「自分で携わっているもので恐縮ではあるが、今国内にはEdyがあってSuicaがあって…とバラバラ。日本はこうしたポイントやデジタルキャッシュなどのシステムに十分に慣れているが、国際モデルから離れてガラパゴスのように国内だけで発展するのではなく一枚岩になる必要がある」とも話した。

 

楽天のビットコイン対応については、海外ではすでに受け付けているが国内ではシステムの統一が先行すると話し、「準備が整った暁には、支払い方法のひとつとして採用する可能性は十分にある」と話した。

 

海外の技術開発に、日本が乗り遅れないためには

 

伊藤氏は、アメリカの技術開発の様子について「MITの人員を研究のためにあちこちに送ってみても、現状ではビットコインの開発関連が一番勉強になり、才能を持った人材がもっともあふれている」と話す。また、商業銀行はビットコインをあまり重視していないようだが中央銀行は注目していること、またブロックチェーン関連の大手プロジェクトはリスクヘッジとしてインフラがすべてビットコインのブロックチェーンに統括されたとしても問題ないようにしているところが多いことを語った。

 

日本がこうした流れに後れを取らないためには、「会社が完成した商品を持っていくのではなく、企画書の段階で技術者が海外へ行き、開発段階から海外のベンダーも巻き込んで取り組みを進めるというスタイルが成功する。できたものを押しつけるというスタイルではなく海外のコミュニティに入っていって、一緒に作るというアプローチへの転換が必要」と話した。

 

 

これには三木谷氏も、「言葉の壁があって難しいのはわかるが、このままでは日本が儲けていた製造業のレイヤーの価値が下がってしまうという危機感がある」と話す。

 

日本のポテンシャルとは

 

楽天では、いま新規採用の80%は外国人だ。「実感として、アジアで働きたいという海外の人材に楽天は人気があると感じている。東京という土地にはアジアのシリコンバレーになるポテンシャルがある。安全で清潔であり、アジアの地域の中でも意外と人気がある。優秀な人材を海外から集められる場所となり得る」と三木谷氏は話す。

 

また伊藤氏は、日本のポテンシャルについて「ポケベルから始まるメッセージ送信や、携帯電話の普及、ポイントの普及度合いなどから見て、日本には新しい技術を受け入れる土壌がある。AIなども文化的に日本の方が違和感なく入る可能性がある。インターフェイスやアプリケーションという意味では日本の方が進んでいるかもしれないし、消費者も洗練されていて新しいものを受け入れる。また、人間関係のニュアンスは日本人が優れている。根幹の技術開発よりは、この領域でがんばれるかもしれない」と指摘する。

 

最後に伊藤氏は、日本のブロックチェーンやビットコインのスタートアップに期待する役割として「ブロックチェーンの技術のことがよくわかる人が1人でも海外のコミュニティに入って、そこで得た技術を日本に持ち帰ることができるとやはり心強い。ビットコインのコアのコードを作るコミュニティに入って、ビットコインの規格を変えるといったようなことが今ならばまだ可能だし、そのような人材がいることは重要。その昔、漢字変換が可能となるように村井 純氏が国際的な学会などの場でロビー活動をがんばったように、意見を届けられる人材が生まれてほしい」と話した。

 

三木谷氏は、「いまや新しい技術はものを運ぶリアルなものとして機能している。世界通貨が出現する可能性だって、将来あるかもしれない。これからの変化は、私達がやってきたeコマースの変化の比ではないと思う。今後の動向を注意深く見守っていきたい」と語った。