2016年に明らかとなった、スマートコントラクト実装への課題

公開日時: 2016/12/31 AM8:30 JST

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2016年、フィンテックの文脈の中でブロックチェーンと同時に「スマートコントラクト(Smart Contract)」というワードが注目を浴びた。スマートコントラクト関連の取り組みは、2016年にはどのように進められたのか? 実際に実証実験を行った企業のインタビューを一部ご紹介しながら振り返ってみたい。
ご紹介するのは金融情報サービスを提供し、ブロックチェーン製品開発にも積極的に取り組む企業マークイット社のプロセス部門部長、Jeffrey Billingham氏にCoin Deskが行ったインタビュー記事だ。Billingham氏は同社のフィンテック関連の業務提携や、ブロックチェーン製品開発などをリードする人物でもある。

 

そもそも、スマートコントラクトとはなにか

 

まずスマートコントラクトとはなにか、初めて聞く方のために簡単にご説明しておく。スマートコントラクトとはその名前の通り、契約(contract)をスマートに実行するためにコンピュータープロトコルによって条件の確認から履行までを自動的に執行させるという発想だ。わかりやすい例は自動販売機で、「“必要な額のお金を入れ、欲しい飲み物をボタンで指定する”という条件が揃うと自動的に飲み物が出てくる」という約束事が自動的に履行されている。

 

ブロックチェーン技術が注目されると、改ざんが難しいことや透明性が高いこと、trustless(信頼不要)であるなどの特長から、ブロックチェーン上でスマートコントラクトを実装すればビジネスが効率的に省コストになるのでは、と特に金融サービス業界に注目されてきた。

 

こうした動きの中、マークイット社のフィンテック業務担当としてスマートコントラクトのアプリケーション開発に1年の年月を費やしたBillingham氏は、インタビューでチームの成功体験と今後の難題について話している。

 

実証実験で判明した、範囲確定作業の難しさ

 

マークイット社のプロジェクトは当初、OTC市場向けにスマートコントラクト・ネットワークを構築することに重点を置いていた。目標は同期されていないコントラクトのワークフローをピア・トゥ・ピアのネットワーク全体で動機して実行することだった。「当時は、”ブロックチェーンであるなら、スマートコントラクトだ”が合言葉のようなときだった」とBillingham氏は振り返る。

 

同社はクレジット・デフォルト・スワップとエクイティ・スワップの認証、倉庫管理、基本的な処理について実証実験を行った。実験は完了までこぎつけたが、その道のりは簡単ではなかったとBillingham氏は話す。なぜなら、前提が十分ではなかったからだ。

 

プロジェクトは当初、取引相手が単に次の3つをエンコードするものという前提で運営された。

(あ)各当事者に支払いが行われる条件

(い)支払額を変更する情報

(う)これらの支払いを完了する時間

当初はこれらをブロックチェーンに入れれば問題解決と考え、デリバティブ取引においてクリアリングと信用取引のルールを上の(あ)、(い)、(う)にあてはめて運営してみることは完璧なテスト環境のように見えた。

 

しかし、こうした実証実験の範囲確定作業が非常に困難であることが判明した。Billingham氏は「今となっては、この範囲確定作業そのものが貴重だったと思っている。業界参加者の間で“スマートコントラクトは難しい”ことを総括的に認識できたからだ。」と振り返る。

 

Billingham氏は、重要な学びとして次の3点を挙げる。

 

「契約(agreements)は資産(assets)ではない」

 

ビットコイン・プロトコルに類似するピア・トゥー・ピア・ネットワークを介した資産の送信は、競合他社間の特注業務のやりとりや契約管理とは根本的に異なる。金融業界にとって魅力に感じる迅速で安価な決済とは、情報の同期とデータの整合性に焦点を当てたものだ。すべて長所ではあるが、要件はそれぞれ異なる。

 

「問題は技術面ではなく、ワークフロー」

 

契約は画一的なものではない。個々の契約の作成、合法化、保管、および執行といったビジネスプロセスはそれぞれまったく異なる。プロセスの中には企業に特有のものもあれば、産業ユーティリティによって管理されるもの、第三者が提供する付加価値サービスであるものもある。これらのプロセスがより低コストでより機敏に相互作用できるプラットフォームである限り、スマートコントラクトで代用する必要はない。

 

「より包括的なビジョンを」

 

契約の履行をスマートにするのは、分散型台帳技術だけではない。金融業界も分散型台帳をスマートコントラクト成功のための唯一無二の手段と決めつけているわけではない。自動化のための数ある選択肢の中のひとつとして見ると、ビジネスへの応用でより有益なものとなる。 特に、機械学習、人工知能、また複数の当事者が同時に同じ情報を同じ方法で正確に消化できるようにする技術の運営者とみなすと、有効な活用方法がみえてくる。

 

2017年には製造業におけるピア・トゥー・ピアの契約管理システムが注目されることになるのではとBillingham氏は見る。また、スマートコントラクトの提供者が契約の処理要素(すなわちスマートコントラクトの構成要素)を契約の交渉要素(任意の、人間が担当する要素)と区別する機能が、マーケットで採用されるかどうかを決めることになるとも考えている。

 

2017年、スマートコントラクトはどうなるか?

 

2016年のスマートコントラクトの実証実験は、マークイット社のケースの場合は技術的なものというよりその前の契約の部分をどのように整理し、ワークフローを作成するかという課題が明らかとなったということのようだ。課題の性質から見て、他の実証実験もほぼ同様であったといえるのではないか。

 

ただしBillingham氏は、2016年のブロックチェーンの流行と実装へのスケジュールが引き延ばされていることに対して業界の多くは疲れていることを認めながらも「この業界がお金や契約についての考え方を変えるには、技術の成長や時間の経過が必要だ。(2016年の学びを念頭に置きながら)我々は引き続き2017年も分散型台帳技術への取り組みを続けるだろう。」とも述べている。

 

2017年にはどのような業界が、どんな取り組みを進めるのか、金融業界はさらなる取り組みへと舵を切るのかどうかが引き続き注目される。

 

参照サイト

メディア名:Coin Desk

URL:http://www.coindesk.com/2016-taught-us-smart-contracts/